sobayanoyutoの蕎麦道楽日記

大好きな蕎麦で遊んでいます

おそば屋さん食べ歩き(№15)~虎ノ門で江戸砂場そばの伝統をつなぐ老舗

    蕎麦で遊んでいます。今回は「おそば屋さん食べ歩き」です。
 小生が食べ歩いたおそば屋さんの中のお気に入りです。小生は趣味でそばを打ちますので,どうしてもそばそのものや汁に関心が向かってしまい,天ぷらや鴨などの種物,お酒やアテなどの料理ものについてはあまり紹介できないかもしれませんがご容赦の程。また,内容はすべて訪問した当時のものであり,現在も変わりないかどうかはその都度確認していませんので悪しからず。また,久し振りに書きましたので嬉しくなって長文になってしまいました。ご容赦を。

№15 虎ノ門大阪屋砂場(東京都港区) 2024.2.20訪問

築100年の歴史を刻む国登録有形文化財の店舗。夕闇に暖かな明かりが浮かび上がります。

 いつものことながら,蕎麦道楽人としては,せっかく東京に行くのでその機会にいわゆる老舗といわれているおそばさんに行ってみたいというお上りさん的な動機によりお店を選んでおり,こちらも典型的ないわゆる「江戸流」のお店です。これからも東京方面に行く機会があれば他の老舗にも行ってみたいと思っています。
 東京メトロ虎ノ門駅から徒歩で3分,虎ノ門ヒルズビジネスタワーと交差点を挟んで,ビル群の中でそこだけ時間が止まっているような,それでいて違和感のない,時を経て濃い飴色にようないい色になっている板張りの外壁と屋根に千鳥破風(上の写真では屋根上部を撮り損ないました。)を飾った2階建ての存在感溢れる歴史的建物が目に入ります。入り口は硝子の入った木の格子戸で,焦げ茶色の暖簾がかかり,上には「砂場」と大書された扁額様の木製看板が掲げられています。
 1923年(大正12年)建築で戦災を免れたとのことですから約百年を経過していることになります。2021年に店前の道路拡張に伴い曳家工法で数メートル移動したとのことですがもはや街のランドマークと言ってもいい建物だと感じました。

 「虎ノ門大阪屋砂場」は更科系や藪系とともにいわゆる江戸三大蕎麦の一つである砂場系の老舗で御承知の方も多いと思います。お店の成立や屋号に関する諸々は長文を要しますので割愛しますが,そのお店の歴史や屋号などもそばの味に影響する要素であることも否めませんので,極々簡単に触れておきますと,砂場系の起源は大阪城の築城資材置き場であった「砂場」にあった蕎麦店が江戸に進出してきたものとされており,1872年(明治5年)に、砂場本家「糀谷七丁目砂場藤吉」の暖簾分けにより、「虎ノ門大坂屋砂場」の歴史が始まり,現在は6代目になるとのことですから老舗中の老舗であることは間違いありません。

 ちなみに,小生は大阪府在住ですが,大阪市西区新町に新町南公園というさして大きくもない目立たない公園があり行ったことがありますが,その公園の一角に「ここに砂場ありき」と刻まれたさほど古いとは思えない石碑があり,「本邦麺類店発祥の地」と刻まれてはいるものの「蕎麦店」とは書かれておらず,周りにもそれを感じさせるような史跡等もなく,残念ながら,砂場系そばの発祥地としての雰囲気はあまり感じられません。

 お店に伺ったのは,2月中旬,最高気温が20℃を上回ろうかという季節外れの暖かい日の夕方,午後6時を少し回ったころでしたが,外待ち客はおらず,温かい明かりに誘われるように入口の格子戸をカラカラと引いて中に入りますと,すぐ左手に2階に上がる階段があり,1階はやや広めのスペースに昔ながらの茶色系の木製のテーブルと椅子が整然と並び5~6割ぐらいの入りでしょうか,ほとんどが4人掛けのテーブルのようで8台程度はありそうでしたし2人掛けテーブルも少しあるようでした。小生はスタッフの若い男性に案内されて4人掛けのテーブル席に一人座りました。木製のテーブルや椅子や内部の設えなどは特に老舗感や高級感を感じさせるものではなくむしろ古いながらも現役感の方が強い感じでした。

 小生のそば屋さん巡りはお昼時が多く,そばを中心にあわただしく2,3種類いただくことが通例なのですが,今回は夕刻で時間的余裕もありましたので,珍しくアルコールを少し頂戴しようかと思い,メニューを見ますと,これがなかなかの充実ぶりです。

 

卵焼きです。いい色です。しっかりとした食感でやや甘めでしたがくせになります。

鶏皮の三杯酢,そば焼酎「木火土金水」,湯桶に入ったお湯です

 お酒さん顔負けの日本酒や焼酎の希少ものや高級酒がずらずらと並んでおり,ありがたいことに一杯から飲めるものがほとんどでした。小生などは聞いたことしかないような銘柄も多くありました。その中から「木火土金水(もっかどこんすい)」という山梨県そば焼酎を湯割りでお願いしました。初めて頂いた銘柄でしたがすっきりと上品な感じでなかなか美味しく飲めました。アテ(関西では肴やつまみを「(酒の)アテ」ということが多い。)はおそば屋さん定番の「卵焼き(夜のみのメニューでなおかつ混雑時は受けられないという注意書きがありました!。)」とやや暖かい日でしたのでさっぱりしたものをと「鶏皮の三杯酢(これも混雑時は受けられないと書かれていました!。)」をお願いしました。卵焼きは丁寧な仕事ぶりがよく分かりましたし,鶏皮の方は酸っぱ過ぎず歯応えも抜群でどちらもお酒のアテとしては好適でした。

「もりそば」です。右下の空いている空間に箸をセットして撮るのを失念しました。

写真を撮る都合で移動させたためざるの目が縦になってしまいました,悪しからず。

 焼酎を楽しみながらおそばのメニューを眺めますと,冷たいそばとしては,「もりそば」のほかに10種ほどが並び,中でも「鉄火味噌そば」,「おろしそば(卵黄入り)」,「茗荷そば」などは姿や中身が気になるところで一度は食べてみたいと思いました。さらには,「各種天せいろ」として「芝海老のかき揚げ天せいろ」など5種類ほどが贅沢に並び,さすがにいわゆる「天ざる」が砂場系の店が発祥とされているだけのことはあるなあと思いました。なお,メニューには「冷たい召し上がり物」と書かれていました。「召し上がり物」とは書かれておらず,昭和生まれとしては好感を覚えたことを付け加えます。
 「もりそば」は使い込まれた感じの黒天朱というのでしょうか外側が黒く天と中が朱色の正角型のそばざるに平らに盛られていました。そばは薄緑色がかすかに残る透明感のある薄茶系の色味で,しっとりとしてつややかに輝き,細からず太からず,ホシは見えません。盛られているざるの目の狭さが少し気になりましたが,水切りがしっかりとなされているようでざるに水気が残るようなことはありませんでしたし,もちろん,ざるの目の間に短いそばが入り込んでしまい出てこないなんてこともありませんでした。
 そばつゆはどちらかというと軽い感じでしたが,醤油感と甘みが後を引くように思いました。このつゆでそばをいただくと,細すぎないそばが引き立てられているように思いました。
 そばの食感はしっかりとしていてむしろやや噛まねばならず,すすり込んで一噛み,二噛みでみで喉に送り込むようなそばではなく,盛られているそばの量がやや多いのと相まって,お酒を飲みながらも食事をする感覚で美味しくいただきました。江戸期のそばの食べ方としては,御承知のように,「三箸半」や「喉で食べる」などがよく言われていたようですが,このお店のそばはしっかりと食事ができるそばのように感じました。

「桜えび天せいろ」です,そば猪口が使われていません。

 次に,せっかく「天ざる」の発祥とされる砂場系の老舗に伺いましたので,「天せいろ」の中から何か一つということで,天せいろ群のメニューの一番右端にのっていた「芝海老のかき揚げ天せいろ」をお願いしようとしました。小生の後ろの席の常連と思しき中年男性客と店のスタッフの方との間で,「この店に来たらやはり芝海老のかき揚げ天せいろは外せない」という趣旨の会話をしているのを耳に挟んだせいもあり食指が動いたのですが,スタッフの方から,無情にも「本日は終わりました」の声が返ってきました。そこで,お願いしたのが「桜えびの天せいろ」です。こちらは,桜えびのかき揚げと黒天朱の長角そばざるに平らに盛られたそばと共に提供されましたが,典型的なスタイルのそば猪口は使われておらず,やや深さのある小さめの丸皿が付いていました。桜えびのかき揚げはかき揚げ用の金属の丸筒を使って揚げられたものだろうと思いますが,その大きさは見た目のインパクトは十分ではあったものの,どう食べるんだと一瞬逡巡するほどでした。箸を入れてみるとバリッと割れ散る硬さで,中には桜えびや三つ葉でしょうか緑色も見えました。丸皿にそばつゆを少し入れて,割れ散ったかき揚げを浸して食べ,合間にそばを啜ることを繰り返しましたが,かき揚げの衣に硬さとともに少しだけ苦みを感じ重く感じる部分もあり,やや揚げ過ぎではなかろうかとの感もよぎりました。これだけ直径が大きいと中まで熱を通すのに時間がかかるんだろうな,などと思いながら,カラリと揚がった大葉の食感を楽しみつつ,最後にそば湯を頂いて油をすっきり流して終わりにしました。

 

(お店のデータ)

・所在地等 東京都港区虎ノ門1丁目10-6 ℡ 03-3501-9661

・営業時間等 月,火11:00~20:00  水,木,金11:00~21:30 土11:00~14:00ころ

       定休日 日曜日,第三土曜日,祝日    

・席数 80席程度かと思います 

・交通 虎ノ門駅1番出口より徒歩3分/新橋駅日比谷改札より徒歩8分/霞ヶ関駅C2C3出口より徒歩5分