sobayanoyutoの蕎麦道楽日記

大好きな蕎麦で遊んでいます

おそば屋さん食べ歩き~江戸更科蕎麦の伝統をつなぐ老舗

    蕎麦で遊んでいます。今回は「おそば屋さん食べ歩き」です。
 小生が食べ歩いたおそば屋さんの中のお気に入りです。小生は趣味でそばを打ちますので,どうしてもそばそのものや汁に関心が向かってしまい,天ぷらや鴨などの種物,お酒やアテなどの料理についてはあまり紹介できないかもしれませんがご容赦の程。また,内容はすべて訪問した当時のものであり,現在も変わりないかどうかはその都度確認していませんので悪しからず。

№12 総本家更科堀井 麻布十番本店

総本家更科堀井 麻布十番本店正面です

 

 今回の「おそば屋さん食べ歩き」は,東京に行った際に伺った老舗といわれるおそばさんの中の1軒で,「総本家更科堀井 麻布十番本店」です。前回の上京時には「№9 神田やぶ蕎麦」と「№10 更科布屋(芝大門)」という老舗に伺ったのですが,今回もいわゆる更科系の老舗に伺いました。
 前回同様に今回も,せっかく東京に行くのでその機会にいわゆる老舗といわれているおそばさんに行ってみたいというお上りさん的な動機によるもので,典型的ないわゆる「江戸流」のお店になるのですが,それもそばの食文化のひとつであり興味津々で行ってきました。これからも東京方面に行く機会があれば他の老舗にも行ってみたいと思っています。

 東京メトロ南北線麻布十番駅などから徒歩10分以内にいわゆる江戸蕎麦の伝統を継承する更科そば系の老舗が3店も集まっています。今回伺った「総本家更科堀井 麻布十番本店」や「麻布永坂 更科本店」と「永坂更科 布屋太兵衛」ですが,いずれ劣らぬ更科そば系の老舗であり,行ったことのある方やご存知の方も多いと思います。これらのお店の成立や屋号に関する諸々は長文を要しますので割愛いたしますが,そのお店の歴史や屋号などもそばの味に影響する要素であることも否めませんので,極々簡単に触れますと,更科蕎麦の発祥は第11代将軍・徳川家斉の治世だった江戸時代の寛政元年(1789年)、信州(長野県)の保科村で太物の行商をしていたそば打ち名人の清右衛門が、太兵衛と改名して開店した「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」であるとされ,以来230年余りに渡り継承されているものとのことです。伺った「総本家更科堀井 麻布十番本店」については,昭和59年(1984年)に「永坂更科 布屋太兵衛」八代目の堀井良造氏が独立し「総本家 更科堀井」を開業したとされています。

お店の前のメニューが並ぶガラスの飾り棚の下の植え込みに半分隠れるように置かれていた銘板様のもの。初代の布屋太兵衛の「布屋」を「堀井」に改名したとされているそうです。 

 当日は,開店時刻の15分ほど前に到着したところ,店の前で開店を待っていたのは一人だけでしたが,程なく10人ほどが行列を作りましたし,予約のグループ客などは少し離れたところで待っておられましたのでやはり人気店であることが分かります。開店時刻の11:30に藍色の暖簾が出され招き入れられました。お店の中は,相当大きなスペースが広がり,木柱や木製のテーブル・椅子,奥の座敷席などが見えます。お店のスタッフに一人である旨を告げると,中央の大きな多角形(八角形位だと思います。)のテーブル席に案内されました。

多角形テーブルの各席は花模様などの入ったすりガラス様の衝立で前と左右が仕切られさながら図書館の自習室にでも来たよう,コロナ禍のなごりでしょうか。

 

 お願いするメニューについては,このお店は更科系の老舗中の老舗ですから,お店の看板であろうと思われるせいろの「さらしなそば」をまずお願いしました。

奥右側が「かき揚げ」です。野球のボール状に揚げられ,サクサクとした軽い衣とぷりんとした海老に三つ葉の緑と香りがアクセントになっており美味です。           

 ご承知の方も多いとは思いますが,一応説明しておきますと,「さらしなそば」はそばの実の中心部分の真っ白な粉で打つそばで,そばの香り成分はそばの実の外皮に近い部分の方に多く含まれているため,そばの香りは弱いのですが,見た目が真っ白で上品であり,細切りタイプが多いので食感もすっきりしていて,噛むとやや甘みが感じられます。田舎系の黒っぽいそばの対極に位置しています。そば打ちとしてはいわゆる湯練りによる場合が多く手間のかかるそばです。
 待つほどもなく提供された「さらしなそば」は伝統的な四角の朱色のせいろに平らに盛られ,お椀状の大きめのそば猪口,追加用のつゆの入ったそば徳利と白葱などが載った薬味皿と共に四角い盆の上に載って提供されました。
 そばは細切りで白さがつやつやと輝いており,まずそばだけを2,3本箸でつまみますとスッと持ち上がり,食べてみますとほんの少し硬さの残る絶妙の茹でと締め加減でほんのり甘さを感じます。そばつゆは醤油感は丸く甘みはまろやかで,そばの甘みを消さないようにバランスが取れており美味しくいただきました。塩でも食べてみたかったのですがテーブルには置いてありませんでしたので,お願いしようかと思いましたが,開店直後でスタッフが忙しそうに立ち回っていましたので遠慮してしまいました。
 そばつゆについて,メニューの説明書きを見ますと,きっちりと締まった「辛口」と当たりの柔らかな「甘口」の二種類用意しているとのことで,さらしな系のそばについては「甘口」を提供しているとのことでした。

「くちなし切り」です。「さらしな」とはそば猪口が変わっています。

 さらに,更科系の老舗にきて変わりそばを頼まないわけにもいきませんので,「季節のかわりそば」の「くちなし切りそば」をお願いしました。くちなしの実をそばに練り込んだそばで美しい薄黄色を呈しており,「さらしなそば」と同様の細切りで,視覚でも味わいながら美味しくいただきました。
 食べ終わって周りを見渡しますと,既に満席状態で,外国の方も何組かおられ,賑やかな雰囲気でしたが,何人か待っておられる方も見受けられましたので,少しだけとろみのあるそば湯を味わってお店を後にしました。

 今回の上京は,11月中旬,東京都港区の某施設で開催された蕎麦webの片山虎之助先生が主催する「蕎麦のソムリエ講座」の一環ということになるのでしょうか,「奇跡の体験・出雲そばを打つ」と題して,出雲そばの名店「きがる」の西村保則氏が参加者の目の前でそばを打ち,打ったそばをその場で出雲そば独特の「割り子そば」の形に準じて味わい,その後同氏から提供された地粉(お酒に「地酒」があるようにそば粉にも「地粉」があります。)400㌘を西村氏や関係者のご指導の下で各自がそばを打ち持ち帰る,というなかなかありえない体験をさせてもらいました。さらに驚くべきことに参加費が無料とのことで,松江市の「松江そば文化ブランド化推進協議会」の活動の一環とのことでした。
 小生も自分で打ったそばを大阪まで持ち帰り,翌日の昼に,いただいたお店のタレ(そばつゆ)で食べましたが,挽きぐるみ(出雲そばでは殻ごと蕎麦の実を挽きます。)の存在感のあるやや黒色がかった色ともっちり感のあるそばを噛んだ時の香りや風味の濃さに感嘆しながら美味しくいただきました。
 今回も片山先生のプロデュースで日本の食文化としての各地の手打ちそばにしっかりと触れることができ楽しい時間を過ごすことができました。

 当日は,宿泊していた六本木一丁目のホテルを11時前に追い出されましたが,お店の開店時刻は11:30とのことでやや時間があり,麻布十番方面は歩いて15分程とのことでしたのでリュックを背負いながら歩くことにしました。

十番稲荷神社です,急な短めの階段を上るといきなり本殿がありました

火伏せのガマ池伝説やカエルのお守りで有名とのこと

童謡「赤い靴」に登場する女の子のモデルである「きみちゃん」の像です

 途中,東京タワーをやや遠目に見ながらシンガポール大使館の前を通って鳥居坂という急坂を下ればお店はもうすぐですが,少し道をそれて火伏せのガマ池伝説ゆかりの御神札やカエルの御守でも知られる十番稲荷神社にお参りし,野口雨情によって書かれた童謡「赤い靴」に登場する女の子のモデルである「きみちゃん」の思ったよりも小さい像の前で思いを巡らせたりしているうちに,開店時刻が近くなってきましたのでお店に向かいました。麻布十番界隈は,おそば屋さんはもちろんのこと種々のお店などが立ち並び歩ているだけでも十分楽しめるところでした。
 

 (お店のデータ)

・所在地等 東京都港区元麻布3-11-4 ℡ 03-3403-3401

・営業時間等 平日【昼の部】11:30~15:30(L.O.15:00)
         【夜の部】17:00〜20:30(L.O.20:00)

        土日祝 11:00~20:30(L.O.20:00) 土日祝日は通し営業

・席数 70席程度かと思います 

・交通 東京メトロ 日比谷線 六本木駅 3番出口より徒歩10分
          南北線 麻布十番駅 4番出口より徒歩7分

    都営大江戸線 麻布十番駅 7番出口より徒歩5分